こうすけの にしのみや日本酒学校(白鹿さんの巻)
湾岸高速から、六甲山の山なみを背景に甲山や白鹿さんの赤くて丸い大きな看板を見ると、あぁ、ふるさと西宮だなぁと感慨深くなるものです。それほど宮っ子にとってお馴染みの白鹿さんの工場が今回の「にしのみや日本酒学校」のキャンパスになります。

宮っ子にはおなじみの白鹿さんの看板。
工場、否キャンパスの正門で守衛さんに校舎の場所を教えてもらいます。広大なキャンパスの中、六光蔵という蔵には酒林が吊るされており、次第に学習意欲が高まってきます。あとで聴いた話ですが、丹波篠山からトラックいっぱいに杉の葉を積んで帰り、社員自ら作成しているのだそうで、酒づくりの方法以外にも受け継がれる伝統があるのです。
さて、校舎に到着。「宜春苑」という建物が今回の校舎です。この古風な建物は大正6年築といいますから驚きです。西宮に生まれ育った生粋の宮っ子なはずなのに、この建物は初めて知りました。戦災や震災を乗り越えてきた風格に思わず気が引き締まります。

宜春苑という大正6年築の建物が今回の校舎です。
日本風の建物の中は洋間になっております。これから披露宴でも始まるんじゃないだろうかと思われる教室の一番窓際に着席します。こういう窓から陽の光が差し込んでくるような席は昔からお気に入り。うつらうつらするのも気持ちが良いし、空想をするのにも最適です。
いかんいかん!しっかり学習せねば、ほっぺたをキュッとつねって授業に挑みます。

これから披露宴でも始まりそうな教室。
チャイムや「起立!礼!着席!」といったことは割愛して授業が始まります。ホームルーム担当の中野先生から本日の時間割などについての説明があります。本日の学習の内容は「日本酒のあるちょっと贅沢なくらしセミナー」。なんだか新しい発見がありそうでワクワクです。まずはビデオ教材で学習。しかし、中野先生によるとビデオというのは古語だそうで、現代文ではデーブイデーと言うのが正しいそうです。
そのデーブイデー教材で印象に残ったのは「酒は造るものではなく育てるもの」という白鹿さんの信念。ふむふむ、なるほどなるほど。

デーブイデーでの学習。
デーブイデー(ひつこいので以下DVDと称す)の映写が終わると、そのDVD教材に主演されていた杜氏の壱岐先生が教壇に立たれます。壱岐先生のお話しは丁寧なもので、杜氏の語源(元々は「刀自」といい、刀とは包丁のこと。つまり家事を司る独立した女性だったそうです。)や、日本酒の分類(純米酒、本醸造酒、吟醸酒など)などについて分かりやすく説明してくれます。また麹の実物なども見せてもらいました。先生は「純米、あるいは吟醸や大吟醸だから良いという訳ではなく、あくまで自分の好みが大切なのです。」と語られ、学生一同大きく頷きました。これこそ実は大切なことで、百人いたら百の好みがあって当然で、それを探し求めていくというのが日本酒の醍醐味なのかもしれません。
壱岐先生の講義の最後、質疑応答では教室が笑いに包まれるユニークな質問も飛び出し(内容はヒミツ)、終始和やかな雰囲気です。

壱岐先生の分かりやすい講義。

これが麹の実物。
続いては新しいお酒の愉しみ方のお話し。中野先生から和らぎ茶のお話しがあります。お酒を飲みながらお茶も同時にいただくというもので、これはなかなか良い習慣です。今回いただいたのはラフランスのフレーバー茶で、竹の酒器の中に桜の花が香るお酒もいただきました。

桜の花が入ったお酒とラフランスのフレーバー茶。
そして、酒の肴はなんと和菓子!先週立ち呑み屋さんでの私の酒の肴を思い起こせば、イカの塩辛、山芋の短冊、鯨ベーコンなどなど。完全にオッサン化している私こうすけ、なんだか未知の世界に誘われましたよ。
中野先生に続いて次は酒井先生が教壇に立たれます。酒井先生からは日本食の奥深さなどの講義があります。話を聞けば聞くほど、日本食の素晴らしさ、そして日本酒がそれにとって重要な役を演じていることを感じます。また、酒器によって味の感じ方が変わってくるという話は興味深いものでした。
少しお酒が入ったので本音を申しますと、夏でも燗酒派の私。やはり燗酒がいいなぁと顔に書いてあったのかどうかわかりませんが、嬉しいことに燗酒が出されました。ちょうど良い温度で最高であります。
燗酒を口に運びニタニタしている間に、酒井先生はなんとバーテンダーに変身。目覚めるように爽やかなカクテルが各テーブルに運ばれてきます。なるほど、若いご婦人方はこういうのがお好きそうです。なかなかナウイぜ!(ナウイは古典か?現代文か?)

ナウイぜ!日本酒のカクテル。
再び中野先生が教壇に立たれ、いつもの冷奴や出し巻卵も美味しいお酒と一緒に愉しめば、素材の持ち味がグッと引き出されて、ちょっとした贅沢ができますと教えてくれます。これは間違いないことでしょう。食に寄り添うために美味しい酒はあるのであります。
でもね、先生。生意気な学生から一言付け加えさせていただきますと、お酒によって引き出されるものは食材の持ち味だけじゃないんですよ。なんと、人間の本音もお酒によって引き出されるのであります。もっともこれには功罪両面ありまして。
「ちょっといい気分になったから言うけど、毎日お弁当作ってくれてありがとう。」
これは良い本音。一方、
「ちょっといい気分になったから言うけど、いつも帰りが遅い遅いってうるさいんだよ。」
これは悪い本音。
おそらく美味しいお酒は良い本音を引き出し、まずいお酒は悪い本音を引き出すのかもしれません。宮水、山田錦、丹波杜氏の技によって育まれた西宮のお酒は、良い本音を引き出す美味しいお酒に違いありません。
意義ある学習の時間も終わりとなりました。これまで経験したことのないお酒の愉しみ方を教えてもらいました。和らぎ茶は梅こぶ茶にしようかなどと考えながらキャンパスをあとにします。ふと上を見上げると赤くて丸い大きな「白鹿」の看板が西宮の街を見渡しています。
おまけ
早いもので12月を迎え、本年も残すところあとわずかになりました。
なにかとせわしない時期なのですが、ふとした時に一年を振り返ってみたりするものです。そして、今年旅立った人に思いを馳せることも当然ながらある訳です。まったくの私事(このブログ自体私事の塊なのですが)の話題なのですが、私が愛読していた作家の阿川弘之先生が今年8月に逝かれました。食通でも知られた阿川先生のエッセイ「食味風々録」の中に、西宮のお酒に触れた一節があるので、追悼という訳でもないのですが、ご紹介したいと存じます。本日講義で聞いた「あくまで自分の好みが大切」という壱岐先生の言葉も思い出されるかと思います。
美味しいお酒は、思いを馳せる翼をも人の心から引き出してくれるのかもしれません。それではみなさん良いお年をお迎えくださいませ。
「又年の瀬が来て、酒屋へ行ってみると、棚に、昨今人の持て囃(はや)す「大吟醸」「純米吟醸」がどっさり並べてある。あの手の酒が私には好きになれない。酒どころとは古来聞いた覚えのない関東北陸北海道各地の産が大部分で、どうかすると物々しい陶器の壺に入れてあって、効能書に「冷やのままお召し上り下さい」云々、燗をするなと指図されるのがそもそも癇にさわる。
小学校の時初めて飲んだ酒は、神事の土器の冷や酒だったけれど、青春期以後の六十年間、日本酒はあたためたのを味わうものと心得て、それで通して来た。越前蟹やつめたい海鼠の酢の物を肴に冬の熱燗、河豚の鰭酒、鮎の塩焼きや目玉ごと煮つけた鯛の頭を肴に初夏のぬる燗、『ああ、旨い』と眼を細めたくなるくらい、ほんとうに旨いのは、やはり灘、西宮、広島の三原、西条、あと京の伏見、土佐の高知、東北は秋田、昔ながらの佳い水が湧く土地の、出来れば昔のままの樽酒、燗をすると味が落ちると言うなら、大吟醸だか何だか、そんな酒初めから飲みたくない。」阿川弘之著『食味風々録』 新潮文庫 104~105頁
旨い酒「白鹿」で思いを馳せる。
就職活動に頑張る学生諸君!年末年始もサクラナビをチェックして情報収集しよう。
そして、西宮のお酒でお正月を迎えよう!
http://n-cci.or.jp/sakuranavi/

宮っ子にはおなじみの白鹿さんの看板。
工場、否キャンパスの正門で守衛さんに校舎の場所を教えてもらいます。広大なキャンパスの中、六光蔵という蔵には酒林が吊るされており、次第に学習意欲が高まってきます。あとで聴いた話ですが、丹波篠山からトラックいっぱいに杉の葉を積んで帰り、社員自ら作成しているのだそうで、酒づくりの方法以外にも受け継がれる伝統があるのです。
さて、校舎に到着。「宜春苑」という建物が今回の校舎です。この古風な建物は大正6年築といいますから驚きです。西宮に生まれ育った生粋の宮っ子なはずなのに、この建物は初めて知りました。戦災や震災を乗り越えてきた風格に思わず気が引き締まります。

宜春苑という大正6年築の建物が今回の校舎です。
日本風の建物の中は洋間になっております。これから披露宴でも始まるんじゃないだろうかと思われる教室の一番窓際に着席します。こういう窓から陽の光が差し込んでくるような席は昔からお気に入り。うつらうつらするのも気持ちが良いし、空想をするのにも最適です。
いかんいかん!しっかり学習せねば、ほっぺたをキュッとつねって授業に挑みます。

これから披露宴でも始まりそうな教室。
チャイムや「起立!礼!着席!」といったことは割愛して授業が始まります。ホームルーム担当の中野先生から本日の時間割などについての説明があります。本日の学習の内容は「日本酒のあるちょっと贅沢なくらしセミナー」。なんだか新しい発見がありそうでワクワクです。まずはビデオ教材で学習。しかし、中野先生によるとビデオというのは古語だそうで、現代文ではデーブイデーと言うのが正しいそうです。
そのデーブイデー教材で印象に残ったのは「酒は造るものではなく育てるもの」という白鹿さんの信念。ふむふむ、なるほどなるほど。

デーブイデーでの学習。
デーブイデー(ひつこいので以下DVDと称す)の映写が終わると、そのDVD教材に主演されていた杜氏の壱岐先生が教壇に立たれます。壱岐先生のお話しは丁寧なもので、杜氏の語源(元々は「刀自」といい、刀とは包丁のこと。つまり家事を司る独立した女性だったそうです。)や、日本酒の分類(純米酒、本醸造酒、吟醸酒など)などについて分かりやすく説明してくれます。また麹の実物なども見せてもらいました。先生は「純米、あるいは吟醸や大吟醸だから良いという訳ではなく、あくまで自分の好みが大切なのです。」と語られ、学生一同大きく頷きました。これこそ実は大切なことで、百人いたら百の好みがあって当然で、それを探し求めていくというのが日本酒の醍醐味なのかもしれません。
壱岐先生の講義の最後、質疑応答では教室が笑いに包まれるユニークな質問も飛び出し(内容はヒミツ)、終始和やかな雰囲気です。

壱岐先生の分かりやすい講義。

これが麹の実物。
続いては新しいお酒の愉しみ方のお話し。中野先生から和らぎ茶のお話しがあります。お酒を飲みながらお茶も同時にいただくというもので、これはなかなか良い習慣です。今回いただいたのはラフランスのフレーバー茶で、竹の酒器の中に桜の花が香るお酒もいただきました。

桜の花が入ったお酒とラフランスのフレーバー茶。
そして、酒の肴はなんと和菓子!先週立ち呑み屋さんでの私の酒の肴を思い起こせば、イカの塩辛、山芋の短冊、鯨ベーコンなどなど。完全にオッサン化している私こうすけ、なんだか未知の世界に誘われましたよ。
中野先生に続いて次は酒井先生が教壇に立たれます。酒井先生からは日本食の奥深さなどの講義があります。話を聞けば聞くほど、日本食の素晴らしさ、そして日本酒がそれにとって重要な役を演じていることを感じます。また、酒器によって味の感じ方が変わってくるという話は興味深いものでした。
少しお酒が入ったので本音を申しますと、夏でも燗酒派の私。やはり燗酒がいいなぁと顔に書いてあったのかどうかわかりませんが、嬉しいことに燗酒が出されました。ちょうど良い温度で最高であります。
燗酒を口に運びニタニタしている間に、酒井先生はなんとバーテンダーに変身。目覚めるように爽やかなカクテルが各テーブルに運ばれてきます。なるほど、若いご婦人方はこういうのがお好きそうです。なかなかナウイぜ!(ナウイは古典か?現代文か?)

ナウイぜ!日本酒のカクテル。
再び中野先生が教壇に立たれ、いつもの冷奴や出し巻卵も美味しいお酒と一緒に愉しめば、素材の持ち味がグッと引き出されて、ちょっとした贅沢ができますと教えてくれます。これは間違いないことでしょう。食に寄り添うために美味しい酒はあるのであります。
でもね、先生。生意気な学生から一言付け加えさせていただきますと、お酒によって引き出されるものは食材の持ち味だけじゃないんですよ。なんと、人間の本音もお酒によって引き出されるのであります。もっともこれには功罪両面ありまして。
「ちょっといい気分になったから言うけど、毎日お弁当作ってくれてありがとう。」
これは良い本音。一方、
「ちょっといい気分になったから言うけど、いつも帰りが遅い遅いってうるさいんだよ。」
これは悪い本音。
おそらく美味しいお酒は良い本音を引き出し、まずいお酒は悪い本音を引き出すのかもしれません。宮水、山田錦、丹波杜氏の技によって育まれた西宮のお酒は、良い本音を引き出す美味しいお酒に違いありません。
意義ある学習の時間も終わりとなりました。これまで経験したことのないお酒の愉しみ方を教えてもらいました。和らぎ茶は梅こぶ茶にしようかなどと考えながらキャンパスをあとにします。ふと上を見上げると赤くて丸い大きな「白鹿」の看板が西宮の街を見渡しています。
おまけ
早いもので12月を迎え、本年も残すところあとわずかになりました。
なにかとせわしない時期なのですが、ふとした時に一年を振り返ってみたりするものです。そして、今年旅立った人に思いを馳せることも当然ながらある訳です。まったくの私事(このブログ自体私事の塊なのですが)の話題なのですが、私が愛読していた作家の阿川弘之先生が今年8月に逝かれました。食通でも知られた阿川先生のエッセイ「食味風々録」の中に、西宮のお酒に触れた一節があるので、追悼という訳でもないのですが、ご紹介したいと存じます。本日講義で聞いた「あくまで自分の好みが大切」という壱岐先生の言葉も思い出されるかと思います。
美味しいお酒は、思いを馳せる翼をも人の心から引き出してくれるのかもしれません。それではみなさん良いお年をお迎えくださいませ。
「又年の瀬が来て、酒屋へ行ってみると、棚に、昨今人の持て囃(はや)す「大吟醸」「純米吟醸」がどっさり並べてある。あの手の酒が私には好きになれない。酒どころとは古来聞いた覚えのない関東北陸北海道各地の産が大部分で、どうかすると物々しい陶器の壺に入れてあって、効能書に「冷やのままお召し上り下さい」云々、燗をするなと指図されるのがそもそも癇にさわる。
小学校の時初めて飲んだ酒は、神事の土器の冷や酒だったけれど、青春期以後の六十年間、日本酒はあたためたのを味わうものと心得て、それで通して来た。越前蟹やつめたい海鼠の酢の物を肴に冬の熱燗、河豚の鰭酒、鮎の塩焼きや目玉ごと煮つけた鯛の頭を肴に初夏のぬる燗、『ああ、旨い』と眼を細めたくなるくらい、ほんとうに旨いのは、やはり灘、西宮、広島の三原、西条、あと京の伏見、土佐の高知、東北は秋田、昔ながらの佳い水が湧く土地の、出来れば昔のままの樽酒、燗をすると味が落ちると言うなら、大吟醸だか何だか、そんな酒初めから飲みたくない。」阿川弘之著『食味風々録』 新潮文庫 104~105頁

旨い酒「白鹿」で思いを馳せる。
就職活動に頑張る学生諸君!年末年始もサクラナビをチェックして情報収集しよう。
そして、西宮のお酒でお正月を迎えよう!
http://n-cci.or.jp/sakuranavi/
by nishinomiyacci
| 2015-12-08 00:01